「壊れた脳 生存する知」(下)

 「壊れた脳 生存する知」を全部読んだ。著者はなんと強くて頭のよい人なのだろうと思う。なんといってもパワフルだ。
 医大在学中に「もやもや病」が発覚、後遺症は無く整形外科医になり、33歳で父親のあとをつぎ整形病院の院長、しかし34歳で脳出血脳梗塞を併発、「高次脳機能障害」となり、外科医への復帰は断念したが高次脳機能障害のリハビリ医に。37歳で3度目の脳出血、左半身の麻痺がのこった。しかし自らが考案したリハビリで老人施設の施設庁として社会復帰を果たす。
 こんなに次から次へと病魔に襲われたら、私だったらとっくにペシャンコになっているのではないか。著者も思いっきりへこんだし、死にたいと涙を流したこともあったという。しかし出来ないことをどうしたら出来るようになるのか、工夫と努力でだんだんとよくなっていくのだ。脳というものはダメージを受けてもそれを補うべくあたらしい組織が生まれ、ネットワークを作っていくのだという。「どんな脳でも必ず何かを学習する」という。
 だから健常者でも人の名前が出てこなかったらそのままにせず、忘れっぽくなったと老化のせいにせず、思い出そうともがくべきだそうだ。もがく習慣をつけると思い出すことが上手になる。脳が一生懸命に働く。
 著者は、脳出血で倒れてから、大変なことも多かったけれどいいこともたくさんあった。障害なんて、無いに越したことは無い。しかし人生1回きり、いろんなことがあったほうが面白い、さらに障害に恵まれたとまで言う。自分の身体と向き合い、対話することなど、病気にならなかったら一生しないで終わってしまうかもしれないからだそうだ。
 最後の、小学生の息子に向けた手紙には涙が止まらない。もうこれ以上、彼女に病気の試練を与えないで、と願うばかりだ。