逆転の発想・非バリアフリーの勧め

 東京・三鷹市の幹線道路沿いに奇妙な建物が姿を現した。赤、青、黄などに色分けされた丸や四角の大きなブロックが三層に重なる。・・・、正体は9個の集合住宅だ。球体や横になった円筒形などの4つの部屋がダイニングを囲む。球体の書斎は床も曲面、円筒部屋の窓際のあるトイレに行くには、シャワーブース脇の隙間を身をよじって通らねばならない。ダイニングの床は傾斜と凹凸のあるたたき、調理場は床より低く、流し台を使うにも昇降運動が必要だ。電気スイッチの位置も普通より高かったり低かったりという具合。

 「高齢者にこそ住んでほしい」。設計した米ニューヨーク在住の美術家、荒川修作(69)は言う。段差を極力なくすバリアフリーとは正反対の発想。

 荒川氏は「自然界に平らな場所は無い。この家に住めば内に眠っている感覚や機能が目を覚ます」。死とう運命にあらがう場との思いから「天命反転住宅」と名付けた。

   (中略)

 二十代に前衛芸術家として活躍・・・、難解な作品を発表し続け、主に海外で高い評価を得る。

 故郷、日本を舞台に、建築と言う形で「哲学、芸術、産業」の融合を目指し始めるのは九十年代後半から。

   (中略)

 三鷹の物件は「100%思い通りに仕上げたくて」自前で建築すると決めたが、「50人以上の有志が退職金などをはたいて出資してくれた」。難工事は竹中工務店が引き受けた。医学会は荒川式空間の認知症治療やリハビリへの効果を検証し始めるなど荒川への理解が広がりつつある。

 「家は住む人の可能性を広げる道具でいい。見た目ばかりを気にする建築家からは出てこない発想でしょうね」。70歳を前に、今なお前衛を走る。

          (今日の日本経済新聞夕刊)



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