子宮はとらない(2)

 筋腫の施術はほとんどが子宮全摘というわけでもない。核出手術という言葉もよく目にしたから。それは若い女性でこれから妊娠を望む人にはちゃんと残してくれる病院も少なくは無いのかもしれない。そのへんは誤解の無いように。(しかし20歳未満でも、状態が悪かったのかも知れないけれど全摘されたケースもあるらしい。)


 しかし私の場合、更年期といわれる年齢で若くは無い。だから「もう要らないから取った方があとあとすっきりする」ということだったのかもしれない。出来た場所や状態にもよるだろう。筋腫だけ時間をかけて取るより子宮ごと取った方が面倒がないということがあったかもしれない。
しかしこれは私の想像で、婦人科の主流の考え方はもちろん分からない。


      *  *  *


 人間ドックで病院を紹介されたのが5月19日(金)、その翌週22日(月)には病院へ行ったのだが、その時点で「子宮は取らない」と勝手に決めていたし、夫も後々のことを考えたら、つまり取ったことによる体調の変化もあるかもしれないから、取らないほうがいいだろう、と言っていた。


 人間ドックで筋腫の大きさなどは聞いていないけれど、1年前は3〜4cmだと言われていた。
「症状が全く無い人でもメロン大の筋腫ができていることもある」というのにその程度の小さい筋腫(私の独断)で子宮を全部取るのはどうしても納得できなかった。そして自分のものは取られたくないというケチ根性が大いにあった。


 それで当ても無く調べるうちに、子宮筋腫を切らずに治す「集中超音波治療」(幹部の腫瘍を焼却する治療)というのがあることを知った。これは超音波エネルギーで子宮筋腫を焼灼(約3〜4時間させるというもの。)
だから何か方法があるはずだ。



 大学病院の初診ではまず、子宮を残したいということを医師に言った。
A医師の説明では、開腹しないで子宮鏡でも手術ができる、子宮は残せる、と言うことだった。しかし「万が一子宮に穴が開いたり、腸など他の臓器を傷つけたら即、開腹して、子宮は全摘になります」と表情も変えずに話す。


 手術にはリスクはつき物だとはおもう。しかし聞かないではいられない。

「そういう予想外の例はあるんですか?」と私。
A医師はやはり表情も変えずに
「それがあるんですよ」。

「エッ???????」



「難しい手術なんですか?」
「ええ、結構厄介なんです」と医師。


 普通は、大丈夫ですよ、とか安心させてくれることを言うんじゃないのかなあ?


 とにかくまだ聞くことはあった。
「集中超音波治療というのがあるとネットで見たのですが・・・。」
その件に関してはA医師は、この病院ではやっていないのでそれに興味があるならそちらに行ってもいいですよ、と妙にあっさりしていた。


 ただし、筋腫の大きさによっては出来ないことがあり、(保険適用でない)治療を受けたが、取れなかったということもありますよ、とのことだった。
その治療方法については3〜4時間も超音波を当てるというのが怖い気もしていたので、その時点でその治療法は選択肢から消えたといっていい。



 その後、手術をするという決心がつかないまま、貧血の注射には通い続けた。決心はつかないけれど、A医師のその言葉が毎日注射に通わせてくれたかもしれない。

 それは筋腫の状態を検査したあとのこと、その検査の担当医師から「子宮は全摘したほうがいいと思います」と言われ、A医師にも同じことを聞いたときの答えだった。

「要るか要らないかは本人が決めることです」



 6月12日(月)朝、弟から電話があった。母から私が手術を受けるかもしれないと聞いたのだ(全摘だと思っていたらしい)。
「手術をその病院で決めているのなら迷わせるようで悪いけど」と前置きして、「子宮を摘出しない手術をしている病院がある、本も出ているから読んでみたら?」


 その日のうちに大手の書店に行って「子宮をのこしたい 10人の選択」を購入して読む。これは開腹はするが、レーザーメスを使って子宮を残すという手術を行っている広尾メディカルクリニックの院長監修の本だ。未婚の女性や子供を望む女性のために子宮をいい状態で温存するというもの。




 6月15日(木)も注射に病院へ。毎日病院に行っているといろんなことが分かるものだ。注射はいつも初診外来の担当の医師がしてくれる。そしてその日はA医師のはずだ。もしそうなら少し話を聞いて、明日の金曜日にその本の病院に行ってみようか。


 案の定、A医師が注射をしてくれた。その間に、少し話しを聞けないかと尋ねると、すぐに別室で時間を作ってくれた。


 まず私が聞いたのは、手術のやり方だ。


 それは開腹はしない子宮鏡下の手術で、カメラがついたメスで筋腫を少しずつ切り取るというものだった。もしかして筋腫の根元をプッツンと切り取るのかしら?と思っていたので、それだと手が滑って子宮に穴が開くかもしれない。そうしたら開腹して全摘だと聞いていたけれど、そのリスクは少ないかもしれないと思ってホッとした。
 
 これなら上記の病院と比べても、開腹しないし私にとって悪い治療ではないかもしれない。



 その時、A医師が、
「今、手術の予定を見たら来週22日(木)なら手術が入れられます。僕はこうして外来にいる日、だからここは誰かに代わってもらってそっちに行ける」。


 手術をするにしてもどの病院にするか、私としての判断の1つとしてA医師の話しを聞きたかっただけだ。なかなか決心が出来ない性格なのだから、あれこれ考える材料が欲しかっただけかもしれないが。アー、それなのに、またしても手術の日程が提示されてしまった。それもちょうど1週間後だ。


 しかしなぜか心は落ち着いていて、数秒考えたけれど、「お願いします」と答えていた。


 本を紹介してくれた弟には「やっぱり今の病院で手術を受けることにした。決めたらすっきり、気持ちが軽くなった」とメールした。
その返事「それでいいんです。納得できれば」




 なぜ手術を決心できたのか、それはA医師が
「要るか要らないかは本人が決めることです」と言ってくれたこと。
そして手術の方法が具体的にイメージできたこと、だと思う。つまりそれで納得できたから気持ちが軽くなった。




 翌週、手術。予定通り約2時間で終了したそうだ。筋腫は3〜4cmだった。8日間で退院。その後は鉄剤で貧血の治療。



      *  *  *




 誰かの参考になるかもしれないなんて思ったのはおこがましかった。ただ慌てただけ、優柔不断な個人的日記だった。




 ++++++++++++++

          「私の時間」 http://fukurouribon.hp.infoseek.co.jp