なずなとKさん

 ふと自然食品のお店が目に入ったので覗いてみた。普通の野菜のほかに「なずな」もあった。

「これはセリ、なずな、ゴギョウ、はこべら・・・のなずなですか??」


「ええ、そうです。ペンペン草(笑) 山かどこかに入って自生しているのを採ったそうですよ。」


 子供のころはそこらに生えていて、実が付いたものを振って遊んだものだ。アブラナ科の植物だけれど、ペンペン草というのだから立派な草だ。


 草を買うっていうのもね・・・、だけど春の七草のひとつだし身体に良さそう〜〜〜。


 買ってしまった。


     湯がいて胡麻和えにした。癖がなくておいしい。知らなければほうれん草の胡麻和えだった。



 初めてのその店に行ったのは、知り合いとの待ち合わせ場所の目の前だったからだ。10年ぶりにKさんに会ったが、ぜんぜん変わっていなかった。自宅の近くに出てくるだけなのにアイラインもばっちり引いていた。


「Fちゃんは化粧してないの? 」


「すいませ〜ん」 (眉毛と口紅を薄くで〜す)


 見かけも違うのだけれど豪快なKさんと面白くも可笑しくもない私、二人は正反対な生活をしてきた。なぜ私がKさんとこうしておしゃべりしているのかさえ、不思議なくらいだ。


 ほんの4〜5ヶ月だけのバイト先で知り合った。私としては女性ばかりの職場は初めてだったけれど、Kさんには始めての昼の仕事だったのだそうだ。


「とにかくビックリした。昼の世界は怖かったわ〜。夜は自分がやりたいことだけやってイヤならしないですんだからね」


 彼女が水商売の世界に入ったのは偶然だったそうだ。友達に頼まれて面接に付いて行ったら自分まで働くことになったのだそうだ。頼まれるままに明日だけ、もう1日と通ううちにその店のナンバーワンになってしまった。


「お客にはどんどんお金を使わせて、バックだ、時計だっていろいろ買ってもらった。」


「え〜?! 私にはできないわ。何しろ男の人とお茶を飲んでも割り勘にしてたのよ。アレ、買って、なんてとても言えない。」


「当たり前よ、昼の世界で、アレ買って、なんて言うのは可笑しいよ。でも夜はそうなの。」


「フーン、私だったら夜でもダメだわ。」


「そういう子、いたいた。お客にお金を遣わせたら悪いからって、自分でおつまみとか酒とかを持って来て、バックから内緒で取り出してお客に出してるの。だけどそういう子には貧乏神しか付かないんだよ。」


「エー、そういうもんなの???」


「そういうもんよ。私はお金をジャンジャン使わせるじゃない、だからお客も金をたくさん持っていかないと怒られるからね、たんまり持ってくるのよ。」


 それからどうしたらナンバーワンになれるかとか、点数を稼ぐ方法とかも聞いたけど、チンプンカンプン。


「だけどFちゃん、着物着るでしょ?」


「うん、最近着るようになったよ。」


「やっぱりね〜、いいかもしれないな。Fちゃんはときどき面白いこと言うし、けっこういけたかもよ」 (過去形の話、念のため)


「え〜、ホント〜」褒めてもらった(のかな?)  (けっこう嬉しかったりして・・・


 Kさんは外食ばかりで、肉が大好き、しかし医者に肉や揚げ物などは食べないようにきつく言われているそうだ。だから最近、ご飯を炊くようになった。友達はみんな、「すごいじゃない」と褒めてくれたという。


「この歳になって、ご飯を炊いたくらいで褒められてもね〜。」


「私ももう夕飯を作りに帰らないと。」


「あらFちゃん、夕飯、つくるの?? あ〜みんな、作るんだ〜。それが普通か〜」


「だからさっき、おかずの作り方を教えるって言ったじゃないの。」


「イヤだ、めんどくさいの、嫌い」


 別れ際に、お惣菜を買って来ると言ってKさんはスーパーに向かった。






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