後日談

 実は、マンションの入り口にいたおばさんには後日談がありました。

 翌朝、気になって1階に下りてみました。するとおばあさんと唯一と思われる手荷物の紙袋が消えていました。

 「今、顔を洗っていたの」と言って帰ってくるのではないかと思われる寝床跡がそこに残っていました。新聞を敷いたその上にビニールのプチプチが寝ていた時の乱れをそのままに、毛布だけはアバウトにたたまれていました。

 ・・・・・・??????

 しばらくそこに立っていました。

 私、おばあさんに失礼なことしたのかしら? だって毛布にすぐ包まっていたよね?暖かかったでしょ?それなのに毛布いらないの?今夜も寒いのに大丈夫?これからどうするの?

 もしかして毛布を持っていっては悪いからと、遠慮して置いて行ったのかもしれない。いえいえ、それならもっと綺麗にたたんで行くでしょ?

 それより持ち物は紙袋ひとつだけ、「毛布なんか格好悪くて持って歩けないわよ」と置いていったのかもしれない。

 きっとあの人、人の好意を受けるのがイヤで、そのかたくなな性格が災いして家を無くしたのかも知れないなぁ。昔はお洒落でプライドが高くて、だから今の身なりもちょっとだけ小奇麗で、もちろん毛布など自分のスタイルに反するから寒くても持っては歩けない。武士は食わねど高楊枝といったところでしょうか。余計な想像をいたしました。

 人は基本的には何を考えているか分からない。こちらがきっとこう思っているに違いないと勝手に解釈してのお節介はただの迷惑なのですよね。

 電車で座っていて、目の前にお年寄りが立ちました。こちらも疲れて眠いけど頑張って席を譲ろう。しかし「いいえ結構です」なんてビシット言われると結構バツが悪いです。

 駅で白い杖ついた目が不自由な人が階段の手すりを一生懸命探っていました。だから「そこにエレベーターがありますよ」と教えました。すると「いえ結構、健康のために階段を使うことにしています。」 

 あ〜、また言われちゃいました。

 だから知らない人に声をかけること、ちょっと躊躇うのです。

 でも知り合いに言われました。

 「いいじゃないの。自己満足で」

 そうですよね、この世知辛い世の中、お節介くらい焼いたほうがいいよね、と思ったのでした。



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