「猫を抱いて像と泳ぐ」

「猫を抱いて像と泳ぐ」(小川洋子著)は、いったいなんのこっちゃ?というタイトルですけど、タイトルどおりの本でした。

 350ページくらいの小説なのに読むのに1週間かかりました。

 主人公がチェス盤の下にもぐってチェスをする話です。本人は駒の動きを見ないのだけど、チェス盤の裏から駒の音を聞き、盤の上で起こっている様を写し見るのです。そこには素晴らしい詩があるといいます。
 
 チェスは知りません。でもこちらにも駒が動く音が聞こえてきます。そして静寂が続く。それが不思議で、だから読み進めるのが勿体無かったこともありました。

 主人公は何も望まずひたすらチェスの相手を勤めます。相手の駒と調和して最強でなくて最善の手を探ります。「心の底から上手くいってると感じるのは相手の駒の力がこっちの陣営でこだまして、自分の駒の力と響き合う時。盤の上では正しいことが行われているという気持ちになれるんだ」と主人公は思います。

 ただただ清冽な空気が、美しいものだけが伝わってくるのです。涙で先が読めなかった。最後は声を出して泣きました。

 それにしても筆者はなんという筆力なのでしょう。「博士の愛した数式」のピュアさにも魅了されました。

 本を読みながら、なんとなく魚の小骨が喉に引っかかっているような気がしていました。それは何だろう?

 主人公はただひたすらにチェスという行動をしています。勝つためでなく、相手に感謝されたいからでもなく淡々とチェスをするのです。そのことが対戦した相手との美しい軌跡を盤の上に描くのです。

 慾も無くただ行動することがこんなにも美しいものなのですね。



 いらさんがこの本を紹介してくれました。
いらさんは私の図書館司書。お勧め本にくるいは無いです。ありがとう(^0^)/




    *** 「私の時間」 http://fukurouribon.hp.infoseek.co.jp